為替切り下げとは、政府の決定によって、100円を150円にするということである。
もしこれだけ為替レートが下がれば、輸出企業の利益は上がるだろう。
海外から入ってくる輸入品の価格も上がるだろうから、輸入品と競合している日本の企業も楽になる。
各国は競って通貨切り下げを断行した。
ある国にとっての通貨切り下げは、他国にとっては通貨切り上げを意味する。
通貨切り下げは他国の犠牲のもとに自国の景気を刺激しようとする政策であるがゆえに、経済学者は「近隣窮乏化政策」と呼んでいる。
またある人は「貧困輸出政策」と呼んでいた。
各国が通貨切り下げ競争を実施したことで為替市場は大混乱になり、国際投資や貿易にも悪影響が及んだ。
通貨の安定は、貿易や投資が安定的に行われる上で重要な意味を持っている。
第二次世界大戦後、米国や英国などが中心になって米国ニューハンプシャー州のブレトンウッズで戦後体制を議論し、安定的な通貨体制を構築することが課題となった。
そこから生まれたのが、IMF(国際通貨基金)である。
IMFは通貨安定を保持することで、戦後の経済成長に大きく貢献した。
1973年に先進国が変動相場制に移行し、固定為替制度を維持するというIMFの当初の役割は終わった。
その後も、途上国の通貨を守る上で、重要な役割を演じたのである。
1997年のアジア通貨危機のとき、IMFが韓国やタイなど、困難に陥った国の金融システムを守るために巨額の緊急融資をしたのを覚えている方も多いだろう。
IMFが韓国やタイに求めた政策(IMFコンディショナリティ)には様々な批判もあるが、今やIMFなしに国際通貨システムの安定は考えられない。
今回の世界的金融危機でも、IMFは重要な役割を果たしている。
今、韓国などを含めた多くの国から資金が流出して通貨価値が大幅に下がっているが、急速な通貨価値の下落はその国の経済や金融システムに甚大な影響を及ぼす。
たとえば、海外からドル建ての資金を大量に調達していた韓国の金融機関にとっては、ウォンの通貨価値が下がれば、それだけドル建ての借金負担が増えるのである。
IMFが支えている現代の国際金融システムと、IMFが存在しなかった大恐慌の時代の国際金融システムとの間には、大きな隔たりがある。
主たる先進工業国の通貨制度が変動相場制であることも、通貨切り下げが容易ではない環境をつくっている。
途上国の通貨はIMFの融資で守られている。
今回の金融危機を契機にIMFの強化が主要国会議の議題に上っていることも、ある意味では当然であろう。
それにもかかわらず、今後も為替レートの動向は大きな不確定要因である。
何よりも感じているのは日本だろう。
金融危機以来、円レートは大幅に上昇し、輸出産業に打撃を与えている。
後で述くるように今後さらにドルが大きく減価する可能性も否定できない。
そうした変化が起これば、大量のドル資産を抱える中国のような国にも多大な影響が出てくるだろう。
この原稿を書いている2009年1月時点で、韓国のウォンは大幅に下落している。
ウォン安の機会を活かそうということで、日本から観光客が殺到しており、ソウルのブランドショップや免税店は一部で入場制限までしているという噂だ。
韓国から見れば、なぜこれだけウォンが安くならなければいけないのか分からないだろうし、大変な目にあった1997年のアジア通貨危機の悪夢を思い出す人も多いだろう。
それでも韓国はまだいい。
アイスランドでは3つの大手金融機関がすべて破綻し、国そのものが破綻状態であると言ってよい。
グローバルマネーの力をフルに活用して奇跡とも言われる経済成長を遂げてきたアイスランドであるが、人口30万人の国は、世界的な金融危機にはひとたまりもなかった。
アイスランドの軌跡を少したどってみよう。
北極圏近くにある小国であるが、1990年代から大胆な経済開放政策に舵を切り、急速な成長を遂げた。
同国の大手3銀行はいずれも投資銀行化し、資金の6割を社債によって市場調達し、その資産規模は同国のGDPの約9倍にまで膨れ上がった。
米ドルなどの外貨で資金を調達して、ポンド建てでイギリスの大銀行やロンドンの高級ブティックなどに投資したのだ。
国民も金利の低いドルや円建てで住宅ローンやオートローンを組んでいたという。
こうした大胆な開放政策が功を奏して、アイスランドのGDPは2003年から4年ほどの間に二倍近くにも拡大し、一人あたりのGDPは日本の水準を超えるまでになった。
これだけ華々しい成長を遂げたアイスランドではあったが、世界的金融ショックにはもろかった。
米国の大手投資銀行Rが破綻したのは2008年9月だが、その一ヵ月後の10月には、アイスランド政府は大手3銀行すべてを国有化せざるをえなくなった。
銀行間のドル建て信用取引は完全にストップし、銀行が発行していた円建て外債もデフォルト(債務不履行)してしまったのだ。
アイスランドは極端なケースではあるが、外貨資金が急速に引き上げられ、国内経済や金融機関が大変な状況に追い込まれている国は世界の至るところに見られる。
アジアでは韓国やベトナムなどが話題になる。
ウクライナ、ハンガリー、パキスタンなどは、IMFの支援対象となっている。
ドバイのように近年急速に発展してきた地域も、不動産投資や株式市場は壊滅状態である。
1930年代の大恐慌の主原因となったのが各国の通貨切り下げであり、戦後、そうしたことが二度と起こらないように、IMFを中心に国際通貨制度が確立された。
にもかかわらず、残念ながら、そのIMFも為替レートの暴走を止めることができない。
大恐慌の時代のように各国の思惑を背景にした通貨切り下げではなく、市場の暴走による通貨暴落が、世界的景気後退をさらに悪い形にしているのだ。
アジア諸国は、1997年に発生したアジア通貨危機で、通貨危機の怖さを痛いほど思い知った。
IMFの融資は重要だが、それだけで自国を守れないこともよく分かった。
世界大恐慌が第二次世界大戦後のIMF体制(ブレトンウッズ体制)の成立を促したように今回の世界的な金融危機住新たな国際金融協調体制ブレトンウッズ・バージョン2と呼ぶ人もいるIを論議する契機となっている.今後の展開を見守る必要1930年代の世界大恐慌の大きな反省材料のもう一つは、景気が悪化する中で、世界の主要国が保護貿易主義に走ったことである。
海外からの輸入を制限すれば、自国企業を保護できると考えたのだ。
国際貿易が順調に行われることが世界経済の健全性を支えるのであり、各国が勝手に貿易制限に走れば国際貿易は致命的な影響を受け、すべての国が被害を受けることになる。
保護政策も、通貨切り下げと同じく、「近隣窮乏化政策」であるのだ。
大恐慌の時代、国際貿易の世界では、日本の繊維産業が躍進の時代を迎えていた。
綿製品が非常に安い価格で世界中に輸出されるようになり、海外の生産者に深刻な影響を及ぼしていたのだ。
当時、欧州の国からは、日本の綿製品の輸出は「ソーシャルダンピング」と呼ばれて批判された。
劣悪な労働条件によってコストを下げて輸出するダンピング的な輸出であり、それによって欧州は被害を受けていると言われたのだ。
同盟国市場を守る措置に出た。
「ブロック経済化」と呼ばれるものである。
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